ひらかたメモリーズ file.008 [2014年10月@村野]

枚方の人々の思い出を元にした、ほぼノンフィクションの読み切りエピソード集「ひらかたメモリーズ」、第8回をお届けします。

ひらかたメモリーズ008


ひらかたメモリーズ file.008
2014年10月@村野

「明日ポスト前な~」
同じ職場で働くナギサとは昨夜にそう言って別れた。

待ち合わせ時刻ギリギリに着いた私はロードバイクの片手を離してナギサに手を振った。ナギサは苦笑いしながら小さく手を振り返してくれる。今日も自転車の鍵を探すのに手間取った私を察したに違いない。

「ごめん~」
「ううん、私もさっき着いたところやし」

ナギサはそう言ってにっこり笑う。
このポストはこんな私たちの待ち合わせをずっと黙って見守ってきた。

今日も私はナギサと過ごす。
それは端から見ればもしかすると不思議なことなのかもしれないけれど、私たちにとっては変わらない毎日だ。
 
ナギサと私は近所の幼なじみだ。
「うちの子も今度一緒に小学校あがるからよろしくね」
そうお願いした誰かのお母さんの後ろに隠れる小さなかわいらしい子。それがナギサだった。

小学校に入り、私はナギサとは違うクラスだったけれど、学校が終わってからはナギサともう一人の友達と三人で遊んでいた。

それは私の誕生日だったと思う。ナギサとその子が私のために二人で手作りのプレゼントをくれたことがあった。そのプレゼントが何だったのかは忘れたけれど、『私たちは三人で仲良しなのに、なんで二人だけで作ったん?私も一緒に作りたかったのに…』と思った。素直に喜べない私は、その頃からちょっとひねくれていたんだと思う。

ナギサとは家族構成もよく似ていたからか、自然と仲良くなった。一緒にいても私は背が高かったので、よく姉妹と間違えられた。小学五年生の時にはじめて同じクラスになって、私たちは漫画を書き始めた。クラスメイトを主人公にしたギャグ漫画を二人で描いてクラスの友達にも読んでもらったりした。交換日記形式のその漫画を描くことは小学校を卒業するまで続いた。

小六の夏休みだったと思う。

ナギサと夏休みの間に手紙を百枚書こう!ということになった。二人で決めた夏休みの宿題。毎日ちっちゃいメモに手紙を書いてラジオ体操で会う時に渡していた。毎日会っているのに何をそんなに書くことがあったんだろうと思う。それに小学校の夏休みは百日もなかったはずなのに、目標に近い数のやりとりを私はナギサとした。彼女は終盤、ひと回り小さい手紙にすることで枚数を稼ぎ、結局私は手紙の数でナギサに負けてしまった。きっと実家の押し入れの奥にはあの夏が、プランターで作ったプチトマトばかり食べていたあの夏が、小さなメモにつまっている。

私は中学に入って些細なことがきっかけでクラスで仲間はずれにされるようになった。そのグループからは露骨に無視されたり、廊下で罵声を浴びせられたりした。

ナギサとは部活が一緒だった。私がナギサと二人で歩いている時、私を仲間はずれにしていたグループの子がナギサを連れて行った。私はその様子を遠目で見ていた。はっきりとは聞こえなかったが「一緒にいて嫌じゃないの?」とナギサに詰め寄っているようだった。そのときにナギサが「嫌じゃないよ」と言ったのが聞こえた気がした。私はクラスではそんな感じだったけれど、ナギサがいてくれたから生きていけたんだと思う。大げさだけど、その時の私の世界はあまりに小さかったから。

ナギサは定期テスト勉強も頑張る真面目な子だった。でも、それがずっとしんどかったようで進学校には進まなかった。私は親の手前、進学校を目指して合格し、ナギサとは別々の高校に進んだ。

たまに連絡をとって会うナギサはますます可愛くなっていった。私は中学で仲間はずれにされた経験から、高校では目立たないように、波風たてないように気をつけていた。ナギサには彼氏もできて私はどんどん距離をあけられている気がしたけど、しゃべっていると中身は変わっていないので安心した。

それからもお互いにそれぞれの道を進んだけれど、色んな縁が重なってまた一緒に居ることになった。同じ職場で働き始めたとき、その景色は私の目にすごく新鮮に映った。私が仕事で自分を追い込んでしまうような時、なんでもない話でなごませてくれるナギサ。一緒に職場から帰る時はたまに時間軸を見失いそうになる。
こんな日々がどれだけ続くのか、いつまで続くのかは今の私にはわからない。でも、もしも離ればなれになってもナギサには幸せになってもらいたい。ナギサを悲しませるような男なら私が奪い返してやるって本気で思う。

これからもナギサとの日々は途切れながらも続くんだと思う。

きっと、たぶんだけど、私はそう思う。
(おわり)

 


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※冒頭の題字「ひらかたメモリーズ」は毎回ご本人に書いて頂いています。