ひらかたメモリーズ file.013 [2012年2月@東香里]

枚方の人々の思い出を元にした、ほぼノンフィクションの読み切りエピソード集「ひらかたメモリーズ」、第13回をお届けします。

ひらかたメモリーズタイトル13


ひらかたメモリーズ file.013
2012年2月@東香里 午後10時半
大阪市内が見えるはずのフロントガラスはもうすっかり曇っている。

夜景を見るためにこの駐車場を選んだのに、アイドリングを切った車内からの景色は、思っていたよりもずっと早く二人の吐息で幕をおろしてしまった。

彼女の誕生日である今日、僕はプロポーズするために彼女を助手席にのせて連れだした。

仕事が遅くなるのはわかっていたので彼女には「少しだけ会おう」と伝えていた。

風呂あがりのすっぴんで来た彼女は、このあと僕がプレゼントを渡すだけで今日は帰ると思っているんだろう。

今まで結婚の話をされても、曖昧にごまかしてきたんだから当然といえば当然だ。

彼女とは就職してから付き合い始めた。
「この人と結婚するんだろうな」
そう思って付き合い始めた人だ。

今日プロポーズするのを決めたのは半年ほど前にさかのぼる。その日は夜勤明けで、僕は自転車で帰路についていた。

朝から容赦なく暑い日だった。
うんざりするほど通い慣れた道で、機械的にペダルを漕いでいる時にふと思った。

(僕はいつ結婚するんだろう)

結婚願望がなかったわけじゃない。
オトナになったらするだろう。
そう他人事のように思い続けて、もういい歳になっていた。

「結婚はいつくらいかな?」

そう彼女に聞かれても「まぁ時期が来たら…」とうやむやに答えてきた。

オトナにはいつなるんだ?
それは自分が決めるんじゃ…?

暑さで少し朦朧とした頭だったけれど、芯の部分で妙にはっきりと「来年の彼女の誕生日にプロポーズしよう」と決めた。

まず誕生日プレゼントのネックレスを渡し、ひと通りのリアクションが終わったあと、婚約指輪を取り出して言った。

「結婚してください。」
「マジで?」
「マジで。」

無難なプロポーズだったが彼女はちゃんとビックリしてくれた。

喜ぶ彼女の顔を見ながら、心のなかでは彼女の両親への挨拶のこと、結婚式のこと…このあとの事を考えていた。

明日も仕事だったのでそのあとしばらくして帰った。

その場所には1時間もいなかった。

(おわり) 


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※冒頭の題字「ひらかたメモリーズ」は毎回ご本人に書いて頂いています。